みんな収納どうしてる? ポストカードを買い込む美術ファンの悩み【今週のお題】
今週のお題「わたしのコレクション」
コレクションとまで言うと仰々しいけれど、手元に集めて長年愛でているもの。
私の場合、それはミュージアムショップで買ってくるポストカードです。
美術展に行く楽しみに目覚めた中学生のころから、お小遣いをやりくりしてお土産にするのが目的のひとつでした。
画集ほど場所をとらず、心に残った数枚だけを選べて(ただし好きな作品がポストカードにない場合も)部屋に飾るのも人に送るのも自由自在。
あれから長い年月が経ち、気づけばポストカードの数はたいへんなことに……。最近ではかなり買い控えているのですが、やっぱり好きなので欲しくなるんですよね。
当ブログでも過去にこんな記事を書いています。
収納の悩みはさておき、上記記事に掲載しなかったポストカードから春らしい作品をご紹介します。
アルバート・ムーア 『庭』 『An Idyll (田園詩)』
鮮やかな花々が咲き乱れる2枚。薔薇、オニユリ、ポピーでしょうか?
西洋絵画では描かれた花に寓意が含まれるケースも多いですが、近所で見かける植物の名前もあやしい私にはそこらへんサッパリ。
後ろ姿・横顔の人物像は洋の東西を問わずに惹かれます。指先や首の傾げ方に見えない表情を想像してしまう。
ピエール・ボナール 『昼食』
ボナール大好き! 理屈抜きでそう思ってしまう日本人は私だけではないでしょう。
浮世絵など日本の美術を愛し、彼が『日本かぶれのナビ』*1と呼ばれたことは後になってから知りました。
知識がなくとも大胆な省略や平面的な絵・縦長の構図に親しみを覚え、明るい色彩に心が明るくなります。
2018年に大回顧展があったばかりですが、いろいろな美術展で作品を見かける画家のひとりです。機会があればじっくり鑑賞してみてください。
妻マルトの浴室での情景を描いた作品が有名なボナール。
けれど犬や猫といった動物へのまなざしも優しく素敵なんですよね。さりげなく画面の端にいる動物たちの姿を探すのも楽しいですよ!
※下記はボナール展開催時の記事。学芸員さんが「犬猫に注目」視点での鑑賞方法を語ってくれています。
ヴァシリー・カンディンスキー 『花嫁』
こちらの作品、今回記事を書くためハガキを整理して久しぶりに目にしました。
すごく素敵、買った私センスいい! ……でも誰だっけ?
画家の名前を確認して驚愕。カンディンスキー??
だって普段の美術展でお会いするカンディンスキー作品はこんな感じ(下記リンク参照)抽象絵画のイメージが強すぎ、買ったものの記憶が薄れていたのですね。
彼が抽象画へと移行するまえの作品らしいと知り、納得しました。
私はカンディンスキーの色使いが好きなので、本作でもそれは共通しています。
そして絵からあふれてくるリズムや音楽。
「音楽と絵画といえばパウル・クレーかな」との連想から調べると、カンディンスキーとクレーは同じ芸術活動(青騎士)に参加していた仲間とか。
画家の交流関係には興味がなかったのですが、好きなものが繋がっていると嬉しいのがオタク心。これからは積極的にチェックしそうです。
話題は戻って 【ポストカードの収納どうしてる?】問題!
ほんと美術好きの皆さんどうしているんだろう……正解がわかりません。
① アルバム型フォトフレーム、ポストカードホルダー
とりあえず我が家の一軍選手はこちら。アルバム型のフォトフレームにおさめて、ときどき差し替えています。
けれど収納枚数をはるかに超えて所持しているため、余ったぶんは文房具店でポストカードホルダーを買ったり、紙袋に入れたままだったり。
アルバム型は見た目はいいんですが、装飾過多な品が多くて何点もは欲しくないのです。
② 壁一面に飾る!(額縁柄きせかえポストカード袋)
収納とは違いますが、憧れているのがこちらの方法。
額縁柄がプリントされた保護袋に入れて、自宅の壁を私だけのミュージアムに!という発想が面白いです。
ある程度のスペースが必要ではあるものの、額縁の秘めるパワーを知っているとコンセプトだけでわくわく。額縁、楽しいですよね。画家が自作した素晴らしい品があったり、絵画より興味を抱くことも。
でも「定期便」形式は最低注文回数が決まっていて面倒……と思っていたら、1回だけの注文も可能とのこと。これなら私でも挑戦できるかもしれない!
他にも「こんな方法があるよ」「ウチではこうやって収納してる」などありましたら、お気軽にコメントいただければ嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
【22.3.21追記】こちらのサイトから可愛いアイコン用のイラストをお借りしました!
吹き出し形式のデザイン、憧れだったんです……。
【東陽町】工場直売!モンシェールのデニッシュ おいしい食べ方もご紹介
「高級食パン」ブームの終焉とは聞きますが……
「高級食パン」「閉店」 ある日、Twitterでこんな文字が目に入りました。
とっさに思い浮かべたのが、最近あちこちで見かける変わった名前の食パン専門店。
予想は大当たりで、1年もたずに閉店することが多いと知り驚きました。たしかに私も2店舗ほど利用してそれきりです。
おいしいはおいしい。軽くなめらかな口当たりと上品な甘さは好みの味でした。でも、いちど食べたら満足してしまうんですよね……。
ネットの評判や私自身の考えをまとめると、ネックになっているのは下記の問題!
・価格が高すぎる
・スーパーで買う食パンも十分においしい
・わざわざ店に行くなら他の種類のパンも食べたい
・日持ちしない、焼くと味が落ちる
・お土産にするには見た目が地味という意見も
食パンは毎日食べるもので、本来高いお金を払う対象ではない。「専門店」という特別感を楽しむなら、店舗を乱立するべきではなかったのかもしれませんね。
ですが私は知っています。1種類のパンしか売らずに、長年地元に愛されているパン屋さんを!
「モンシェール」 東陽町工場 デニッシュ食パン
今回ご紹介する「モンシェール」は東西線の東陽町駅から5分ほどの場所にあります。
区役所のある大通りなので、駅前は飲食店などが立ち並んでいます。
右を見ても左を見ても普通の住宅なので「本当にこんな場所にあるのだろうか……」と不安になりますが、そのまま進んでください。
到着しました! この赤い看板が目印。
運よく焼き立てのタイミングで訪問すると、遠くまでパンの香ばしい匂いがただよってきます。
こちらの工場はなんと年中無休・24時間営業とのこと。入口から声をかけると、お店の方が紙袋に入ったデニッシュをすばやく渡してくれます。
はじめてモンシェールのパンを食べる方には、2斤のプレーンがおすすめ! (税込み1,000円)
他にもカスタードやメープル、季節ごとの限定商品がありますが、すべて予約が必要なうえに1.5斤とサイズダウンしてしまいます。(価格も少し高い)
まずは定番商品を頼んで、気に入れば別フレーバーも試してみてはいかがでしょうか。
プレーンは予約不要と書きましたが、クリスマスや年末年始は注意が必要です。
ちょっとした贈り物や帰省のお土産にもデニッシュはぴったり。そのため、時期によってはお客さんが殺到するのです。(数年前、雪のちらつくなかで焼き上がりを待った経験あり)
平常時でも車で訪れまとめ買いする方を見かけるので、イベント前後は避けたほうが安心ですね。
帰宅後、さっそく実食。おすすめの食べ方はこちら!
このどっしりと重厚な見た目! 黄金色のデニッシュは視覚でも楽しませてくれます。
モンシェールに行ったのはかれこれ半年ぶり。
ひさびさなので、初めて食べたときのように心躍らせながらパンをカットします。
まずは焼かずにいただきました。しっとりして美味。
けれど工場で焼きあがってすぐを食べたことがある身からすると、やや物足りない感じも。
翌朝はトーストして食べることにしました。
軽くあぶって、なにもつけずに食べる。これが正解!!
出来立てのデニッシュを買えた場合を除き、上記の食べ方がいちばんだと思います。
トーストするとパンにふくまれたバターが生地を色よく焼きあげ、さっくりとした食感に。あたためることで濃厚な甘さも際立ちます。
ハムや卵焼きといった塩気のあるおかずとも意外に好相性。
個人的にはこの点もポイントが高いです! パンが高級仕様だからといって、おかずまで目新しいものを用意していられません。ふだん食べているメニューに無理なくプラスできると継続して買いやすい。
まとめ
高級食パンブームの翳りは、やはり「日常から浮いてしまったから」という理由に尽きるのではないでしょうか。
いつ行っても途切れることなくお客さんがいるモンシェール。
「今日はこのメーカーのパンを買おう」そんなレベルの気軽さで利用されているこの店が、地元にしっかりと根付いているのを改めて感じました。
朝食によし、スイーツ代わりにおやつでよし。
つい手がのびて体重が気になるのだけが難点ですが、冷凍保存も可能!
手土産にも喜ばれるデニッシュ、ギフトの選択肢に加えていただけたら嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
あの子供の声は、自分だ──実話をもとにした『罪の声』小説&映画感想
読書&映画感想 2022年2月
「キツネ目の男」「青酸入り菓子ばらまき事件」
グリコ・森永事件に詳しくない世代でも、これらの単語には聞き覚えがあるのではないでしょうか。
企業が「かい人21面相」を名乗る犯人に翻弄された昭和の大事件も、時効を迎えた今は遠い過去の出来事。かくいう私の知識も、TVで放映される「未解決事件特集」で知った程度です。当時の小さな子供をもつ親の恐怖も、大好きなお菓子が撤去された子の落胆も想像することしかできません。
【現金の受け渡し指示に、子供の声がふきこまれたテープが使われた】
知らなかった事件の詳細部分のひとつです。
子供たちの安全を人質にとった犯罪に、同じ子供の声が利用されたという事実。
そこにスポットをあてた小説が、今回ご紹介する『罪の声』です。2020年に映画化もされていますので、あわせて感想を書いていきますね。
※むしろ映画がメインかもしれません。最初に映画を観たのと、そちらのほうが圧倒的に好みだったので……。
『罪の声』 塩田武士
京都で父から受け継いだテーラーを営む曽根俊也。ある日、彼は自宅で古びた黒革のノートとカセットテープを見つける。
父の遺品であるノートにはびっしり書かれた英文のなかに、ぽつりと日本語で【ギンガ】【萬堂】──どちらも日本を代表する菓子メーカーだ。不審に思いながらテープを再生した俊也は慄然とする。
幼い俊也がたどたどしい口調で吹き込んだ意味不明な文。それは迷宮入りした「ギン萬事件」で使われたものだった。
青酸入り菓子で企業を脅迫した、前代未聞の未解決事件。
なぜ自分の声が使われたのか、テープを録音したのは誰なのか。
苦悩する俊也をよそに、大日新聞の記者・阿久津も事件を追いはじめる。
昭和の時代に取り残された闇に光をあてる、長い旅がはじまった。
はじめに告白すると……
原作小説あっての映像化だというのに申し訳ないんですが、映画のほうがはるかに好みです私!!!!!
【おすすめアートスポット】服飾博物館「民族衣装」展へ行きました【新宿】
『民族衣装 異文化へのまなざしと探求、受容』展
新宿の文化学園服飾博物館で2/7まで開催していた『民族衣装』展、滑り込みで鑑賞してきました。
とても面白く、充実した展覧会でした! 余裕をもって訪問したいと思いながら、なかなか機会がなく……会期は終了してしまいましたが、その魅力を振り返りつつ博物館のご紹介をしたいと思います。
次回の企画展『ヨーロピアンモード 花 』展も楽しそうなんですよね。
毎日あたたかくなっていく季節のお出かけ候補に加えていただければ幸いです。
雑踏のなかの静かな空間 文化学園服飾博物館
文化学園服飾博物館は年に4回ほど企画展を開催しており、美術ファンにはよく知られた存在かと思います。展示は所蔵品が中心。しかし戦前からの膨大なコレクションよりテーマにあわせた衣装が選ばれており、何回訪れても飽きることがありません。
新宿駅から歩いて10分程度と行きやすく、華麗な着物・ドレスはアートになじみのない方やお子様でも楽しめるのではないでしょうか。
東京と近郊の美術館・動物園などをおトクに楽しめるチケットブック「ぐるっとパス」の常連施設でもあります。服飾博物館はこちらのパスのみで入場可能!
服飾博物館の入場料500円に対し、ぐるっとパスのお値段は2500円。期限は最初に利用した日から2か月間と縛りはありますが、上手に使えばすぐに元が取れますよ(けっこうお高い料金の施設も対象になっているので……)個人的には庭園美術館がオススメ。
参加施設でめあての美術展がある方は購入を検討してみてくださいね。
※2022年のぐるっとパス発売は4/1からです。
前置きはこの程度にして、博物館へ向かいます。
公式HPには新宿駅からのアクセスのみ書かれていますが、人ごみが苦手なので無視して西新宿駅から。都庁を右手に見ながら議事堂通りをまっすぐ行けば目の前です。方角さえ合っていれば迷いようもありません。
服飾博物館の展示室は1階と2階にわかれています(順路は2階から)展示内容を順を追って鑑賞したい方は右手奥の階段を上りましょう。
「所蔵品は撮影OK」の美術館も増えてきましたが、こちらの施設は残念なことに写真NG。ポストカードやカタログが窓口で販売していますので、よろしければお土産にどうぞ。
『民族衣装』展の感想
現代よりもはるかに情報が少なく、海外に行ける機会も限られていた時代。異国に住む人々の風俗、とくに身にまとう衣服はどれほど人々の好奇心をかきたてたことでしょう。
『民族衣装』展では海外の知識がどのように民間に浸透していったか、4つの項目に分けて説明されていました。
①未知の世界への好奇心 【~19世紀末】
②より正確な情報への欲求 【20世紀前半】
③民族衣装のさらなる探求 【20世紀後半】
④民族衣装の模倣、受容 【ヨーロッパの流行への影響】
①は精緻な挿絵を含む書物が中心。驚くほど詳細な内容もあれば、実在しない国の住人を描いたものもあり、まだまだ玉石混交といったところ。
②では「植民地政策で渡航が盛んになった」「撮影技術が進歩した」などの背景で、正確な民族衣装の記録が一気に進みます。
チラシの右上にある花の刺繍がかわいい靴、いかめしい文字のタグが付いているのが見えますでしょうか?
陸軍被服廠の外郭団体が民族衣装を現地収集したときのタグだそうです(それらが博物館の民族衣装コレクションの基礎となったとか)
デザインの愛らしさにうっとりし、戦中・戦後の混乱期を乗り越え品物が残っていることに別の意味でため息がでました。こまかな分類は私などとても出来そうにありません。
③の時代になると、海外でファッション誌の撮影が行われるなどグッと身近な話題になってきます。
実話怪談×ミステリー『火のないところに煙は』芦沢央【読書感想】
読書感想 2022年1月
怖い話はお好きですか?
私はたいへん臆病な性格です。態度に出さないので知る人は少ないけれど、ホラー類はかなり苦手。匿名掲示板発でいまや萌えキャラとして定着した感のある「八尺様」ですら、本編を読むとそわそわしてしまいます。
それなのに怖い話を読む理由のひとつは、秀逸なタイトルにあるのかもしれません。実話怪談の題名は、なぜあんなに好奇心をそそるのでしょうか。凝ったものよりも、簡素なネーミングのほうが印象に残ったりします。日常的に使う単語の羅列だったはずのタイトルが、読み終えたあとは怖くて仕方がない、そんな具合に。
『火のないところに煙は』 芦沢央
今回ご紹介する小説『火のないところに煙は』では、実話怪談の醍醐味として【信じてきた世界が揺らぐ恐怖】をあげています。
状況や経緯が簡潔に提示され、怪異の内容が描写されたと思うと、潔いほどすばやく幕が引かれる。だからこそ、突然見知らぬ異界へと連れ出されてそのままポンと置き去りにされるような感覚を覚えるのだ。その、本を閉じても読む前と同じ場所には戻ってこられないような感覚──信じてきた世界が揺らぐ恐怖こそが実話怪談を読む醍醐味だと思うのだが
『火のないところに煙は』芦沢央「最終話 禁忌」から引用
平穏な日常に当たり前の顔をして異質なものが侵食する恐ろしさ。
知ってしまった後は、もう元には戻れない。
「普通のタイトルのほうがかえって怖い」私の感覚とも共通する部分です。
本作のヒロインは芦沢央氏ご本人。作家が主人公、そして実話怪談という題材は『残穢』(小野不由美)を思い出しますね。どこまでが創作なのか、虚実の境目が曖昧になっていく快感がやみつきになるジャンルです。
正直、ネタバレへの配慮が難しい作品です。順を追ってあらすじをまとめ、簡単に感想を書いていきますね。
- 読書感想 2022年1月
- 『火のないところに煙は』 芦沢央
- 第一話 染み
- 第二話 お祓いを頼む女
- 第三話 妄言
- 第四話 助けてって言ったのに
- 第五話 誰かの怪異
- 最終話 禁忌
- 『火のないところに煙は』 芦沢央
寝るときの靴下=雪山登山用ソックスなんだけど、理想の品が見つかりません。
今週のお題「お気に入りの靴下」
「手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)」という病気をご存じでしょうか。
手のひらを中心に足の裏などにも併発して、日常生活への支障をきたすほど大量の汗をかく病気です。
汗の量にも個人差があります。手のひらが湿っている程度から、手首から汗がしたたり落ちてヒジに達する重度まで。症状は一定でなく、同じ患者でも満員電車で平然としているときもあれば、自室でリラックスしているのに手はびっしょり、なんてことも。
私はおそらく最も症状が重いケース(おそらく、というのは医療機関にかかったことがないからです)この記事も手首の下にタオルをしいて書いています。小学生の頃から悩まされ長い月日がたちましたが、いまだに詳しいメカニズムは解明されていません。
事務作業ではプリント1枚扱うのにも気をつかう、他人と気楽に手をつなぐこともできない。当事者にはとてもとても厄介な病気なのです。
不自由さと深刻な他者との断絶をもたらすわりに知名度が低く、軽く扱われがちなのもこの病気の辛いところ。
でも、患者もこれだけ長期間つきあえば慣れますからね。
季節の変わり目や人と会うときなど、自分の体調・緊張の度合いにより薬を塗布してやりすごしています。手術はデメリットが大きそうだから却下。
そんな私が直面する「眠るときの靴下選び問題」についてお話します。
足裏の汗で冷えて眠れない! 夜の靴下選びはいつも真剣
手の汗への対処は何とかなる。私を困らせるのは足の汗でした。
足が汗で冷えると二度とあたたかくならない!
靴下を重ね履きしても、ほかほかの湯たんぽを入れても回復不可能!!
頭寒足熱という教えが身に染みるのは冬の布団のなかです。冷たい足先をこすり合わせ、遠ざかっていく眠気を感じながら朝を待った経験は数知れず……。
薬を足にも塗ればいいのでしょう。しかし、地震でもおこったときに足裏がカサカサでは走りにくいので試したことがありません。(本音を言えば面倒くさい)
その結果、眠るときに履くソックスにすべてを託すことになります。けれど、理想の品を探すのはなかなか困難でした。
あたたかくて、汗をよく吸い、かつ素早く放出してくれる靴下。
ストレッチが効きすぎだと寝るときにはキツい。ぶかぶかオーバーサイズも不便。
スポーツ用品店や靴下専門店をまわっても、いまいち気に入るものが見つからない。生地がわずかに硬かったり、サイズが合わず爪先が余ったり……。
高機能の靴下は安い買い物ではありません。納得できないものを何千円も出して買うのがもったいなくて、ここ数年は普通の靴下+裏面ボア素材のルームカバーソックスで我慢しています。
かつて私は、上記の条件に当てはまる素晴らしい靴下を持っていました。
家族がプレゼントしてくれたアウトドア用の靴下。見るからに上等そうなウール、厚手なのに程よくフィットして、どこも余らず締めつけない。やや長いチャコールグレーの毛足が足をしっとりと包み込んでくれます。
うっかり炬燵で足に汗をかいても大丈夫、布団に入るころには足裏はさらさら。
このソックスさえ履けば真冬でも無敵!
あまりにも快適だったため忘れていたのです。自分の「好き」と世の中の需要は、必ずしも一致しない、ということを。
買いだめしておこうと店に向かい、棚に商品がなかったときの絶望感。
あれから時が過ぎ、メーカー名を記したメモも失くした今、後継品ですら入手は難しい状態です。
けれど、私はまたあの靴下に出会いたい。
長年の悩みから解放してくれた安心感は、なにものにも代え難いものがありました。
いつか、きっと。そう思いながら、私は今日も通販サイトをめぐるのです。
【読書感想】桐野夏生『ハピネス』華やかな生活の裏にひそむ虚無
読書感想 2021年11月
『ハピネス』 桐野夏生