みのりブログ

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あの子供の声は、自分だ──実話をもとにした『罪の声』小説&映画感想 

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読書&映画感想 2022年2月

「キツネ目の男」「青酸入り菓子ばらまき事件」

グリコ・森永事件に詳しくない世代でも、これらの単語には聞き覚えがあるのではないでしょうか。

企業が「かい人21面相」を名乗る犯人に翻弄された昭和の大事件も、時効を迎えた今は遠い過去の出来事。かくいう私の知識も、TVで放映される「未解決事件特集」で知った程度です。当時の小さな子供をもつ親の恐怖も、大好きなお菓子が撤去された子の落胆も想像することしかできません。

 

【現金の受け渡し指示に、子供の声がふきこまれたテープが使われた】

知らなかった事件の詳細部分のひとつです。

子供たちの安全を人質にとった犯罪に、同じ子供の声が利用されたという事実。

そこにスポットをあてた小説が、今回ご紹介する『罪の声』です。2020年に映画化もされていますので、あわせて感想を書いていきますね。

※むしろ映画がメインかもしれません。最初に映画を観たのと、そちらのほうが圧倒的に好みだったので……。

 

『罪の声』 塩田武士

 

 

京都で父から受け継いだテーラーを営む曽根俊也。ある日、彼は自宅で古びた黒革のノートとカセットテープを見つける。

 

父の遺品であるノートにはびっしり書かれた英文のなかに、ぽつりと日本語で【ギンガ】【萬堂】──どちらも日本を代表する菓子メーカーだ。不審に思いながらテープを再生した俊也は慄然とする。

幼い俊也がたどたどしい口調で吹き込んだ意味不明な文。それは迷宮入りした「ギン萬事件」で使われたものだった。

 

青酸入り菓子で企業を脅迫した、前代未聞の未解決事件。

なぜ自分の声が使われたのか、テープを録音したのは誰なのか。

 

苦悩する俊也をよそに、大日新聞の記者・阿久津も事件を追いはじめる。

昭和の時代に取り残された闇に光をあてる、長い旅がはじまった。

 

 

 

tsuminokoe.jp

 

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はじめに告白すると……

原作小説あっての映像化だというのに申し訳ないんですが、映画のほうがはるかに好みです私!!!!!

 
小説版はとにかく枝葉が多いと感じて……。
ギン萬事件に関係することなら、どれだけ詳細でも苦になりません。むしろ臨場感が増して大歓迎。
問題は、そのこまかい描写がすべてのシーンに及ぶこと。海外取材にいくエピソードでは列車内の様子や乗り換え方法までことこまかに説明され(頭に浮かんだ情景をぜんぶ書くタイプかあ)と挫折しそうになりました。
実際にあった事件だからこそあますところなく、という作者の想いからかもしれません。でも、慣れるまではすこし大変でしたね。
 
そんな事情なので、ここからは基本が映画版の感想、プラス小説を読んでの追記でいきます。
 

 

 

主人公 曽根俊也

 
映画で演じたのは星野源さん、実直なテイラー役がとてもハマっていました。
 
俊也はギン萬事件に亡き父が加担したのでは……という疑いを胸に過去を探るのですが、愚直な職人のやることなので読者(視聴者)はハラハラします。とくに小説版は聞き込みのときに録音テープの件をしゃべるわしゃべるわ。「それ最後の切り札じゃないんかい!」とつっこんだこと多数。
 
他に証言を引き出すネタがないとはいえ、交渉が下手すぎます。でも、そこがいかにも彼らしい。
地に足をつけて生きてきた人間の強さが伝わる、いい演技だったと思います。
 

新聞記者 阿久津英士

 
ギン萬事件を調べる新聞記者、演じたのは小栗旬さんです。
 
熱い記者魂の持ち主ですが、そんな自分を照れゆえか茶化しがち。可愛げのある憎めなさが役者さんの笑顔とぴったりマッチしていました。
小説を読んで良かったなと思えたのは、阿久津の地道な取材内容を文章で確認できた点ですね。見落としたり、意味がわからなかった部分が解明されて満足。
 
魅力的な配役・演技のなかで唯一気になったのは「阿久津さん、文化部の記者なのにそっち系の仕事バカにしすぎじゃない?」問題。
映画版で覚えたモヤモヤは原作を読むといっそう酷くなりました。これは後述します。
 

もうひとりの「声を使われた子供」 生島聡一郎

 
脅迫テープに吹き込まれた声は3種類。俊也、父親が犯人グループの一味である聡一郎、そして聡一郎の姉。
私がこの記事を書こうと思ったのは、聡一郎役の宇野祥平さんの演技が素晴らしかったからです。
 
俊也と阿久津は協力しあい、紆余曲折を経て聡一郎を探しあてます。待ち合わせた店に聡一郎があらわれた瞬間、多くの観客が息をのんだことでしょう。
回想シーンの無邪気な少年が、あんな疲れ果てた老人のように……。
 
俊也と聡一郎、ともに犯罪に声を使われた子供。
けれど俊也自身はつい先日までなにも知らず、30年以上家族と平穏な日々を送ってきたのです。対して聡一郎は長年息をひそめて暮らしてきたことがうかがえました。
 
事件後にたどった道がまったく違う。それが役者の佇まいだけで残酷なほど伝わってきました。
「あなたはどんな人生でしたか」と聞かれ、言葉につまる俊也の気持ちがよくわかります。
 
誰にも言えない秘密を抱え、同じ立場のはずの相手ともわかりあえない。犯人がしたことの罪深さがもっとも鮮明に見えてくる名場面でした。
 
 『罪の声』で2020年度の映画賞をいくつも受賞された宇野さん。
壮絶な人生をおくる聡一郎の役作りのため、10Kgの減量をして撮影にのぞんだそうです。インタビューから感じとれる誠実なお人柄も素敵。
これからも出演作をチェックしたいですね!
 

 

 

小説と映画の違い ──「女性」の描き方について

 

原作でひっかかった部分、考えてみると多くが女性の描写についてでした。

まず、阿久津がとある女優のインタビューを行うエピソード。

阿久津はもと社会部の記者ですが現在の所属は文化部のため、こちらが本来の仕事といえます。しかしその態度が、どうにも不遜というか……。女優の出演ドラマへの評価も内心辛口で、それ自体はいいけれど阿久津の性格からすると態度に出してない? 大丈夫?

インタビューも「女優が手を抜いた返答をする」と不満たらたら。

でも、女優さんはリスク管理も大事ですよね。そつがないを通り越して退屈な答えしか引き出せなかったなら、それは阿久津にも問題があったように思います。実際、彼の書く芸能記事は「スッカスカ」というのが社内評価のようですし。

ギン萬事件への熱意が本物なだけに、最後まで文化部の仕事を軽んじてるのがモヤモヤ……!

 

 

映画では好人物だった俊也にも、内面が深く描かれた小説では抵抗を感じる部分が。

聡一郎の姉・望の中学時代の担任に事情を聞こうと自宅を訪れるシーン、この家の描写がことさらに惨めで辛気臭いのです。

望・聡一郎の一家は父親が犯人グループのひとりだったことから事件に巻き込まれ、悲劇的な運命をたどります。その担任教諭が暗~く意味ありげに出てきたら「これは重要な手がかりを知ってるな!」と思いませんか? 私はそう期待しました。

 

結局女性教師は当時のこと以外は知らず、暗い印象は『家のなかに光がない(老母とふたり暮らしで子供がいない)から』──

俊也はそう考え、納得したのです。

星野源で満点叩きだした主人公への好感度が、地に落ちた瞬間でした。そんな雑な解釈ってある?????

 

老老介護の例を出すまでもなく、主人公の考えには一理あるかもしれません。「子供」をテーマにした作品らしい結論と流す読者も多いでしょう。

けれど、私にとってはこの描写で小説『罪の声』はnot for meとなりました。

教師という仕事に長年つき、ほんの数年受け持っただけの教え子を気にかけ、心から涙してくれる。望の親友とすぐに連絡をつけ俊也たちに紹介してくれた点からも、有能さと人の好さがうかがえます。救われた生徒はきっと数多いはず。

 

私もかつて中学校時代の教師に救われた子供でした。

彼女は当時も現在も独身で、お子さんもいません。恩人の先生が、その大事な人生が、一方的な見方で貶められるのは悲しい。ひとりの女性として思うところもあります。

登場人物の価値観=作者の価値観ではないけれど、本筋とは無関係な部分だけに書き手が透けて見えるというか……。「人生の消化試合」なんて表現はせずに、敬意をもって描いてほしかったですね。

 

 

長々と小説の悪口(悪口です)を書きましたが、映画はたいへんバランスのよい出来です!

実力あるキャストを揃えたこと、『逃げるは恥だが役に立つ』『MIU404』『重版出来!』など数々のヒット作を手がけた野木亜紀子さんが脚本を担当していることが大きいのでしょう。

市川実日子さん演じる俊也の妻がどんと構えていて素敵。奥さん原作ではほぼモブなんですよ~姑問題と子育てにカリカリしてる印象ばかり強くて。

望ちゃん役の女優さんも演技にグッときました。

 

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最後まで読んでいただきありがとうございました!