みのりブログ

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実話怪談×ミステリー『火のないところに煙は』芦沢央【読書感想】

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読書感想 2022年1月

怖い話はお好きですか?

私はたいへん臆病な性格です。態度に出さないので知る人は少ないけれど、ホラー類はかなり苦手。匿名掲示板発でいまや萌えキャラとして定着した感のある「八尺様」ですら、本編を読むとそわそわしてしまいます。

それなのに怖い話を読む理由のひとつは、秀逸なタイトルにあるのかもしれません。実話怪談の題名は、なぜあんなに好奇心をそそるのでしょうか。凝ったものよりも、簡素なネーミングのほうが印象に残ったりします。日常的に使う単語の羅列だったはずのタイトルが、読み終えたあとは怖くて仕方がない、そんな具合に。

 

『火のないところに煙は』 芦沢央

 

 

今回ご紹介する小説『火のないところに煙は』では、実話怪談の醍醐味として【信じてきた世界が揺らぐ恐怖】をあげています。

 

 

状況や経緯が簡潔に提示され、怪異の内容が描写されたと思うと、潔いほどすばやく幕が引かれる。だからこそ、突然見知らぬ異界へと連れ出されてそのままポンと置き去りにされるような感覚を覚えるのだ。その、本を閉じても読む前と同じ場所には戻ってこられないような感覚──信じてきた世界が揺らぐ恐怖こそが実話怪談を読む醍醐味だと思うのだが 

                

     『火のないところに煙は』芦沢央「最終話 禁忌」から引用

 

 

平穏な日常に当たり前の顔をして異質なものが侵食する恐ろしさ。

知ってしまった後は、もう元には戻れない

「普通のタイトルのほうがかえって怖い」私の感覚とも共通する部分です。

 

本作のヒロインは芦沢央氏ご本人。作家が主人公、そして実話怪談という題材は『残穢』(小野不由美)を思い出しますね。どこまでが創作なのか、虚実の境目が曖昧になっていく快感がやみつきになるジャンルです。

 

芦沢さんの作品は『許されようとは思いません』が面白く、ブログで感想も書きました。そのあと何冊か読んだのですが、テーマが重複していたせいかピンときませんでした。けれど『火のない~』は傾向がガラッと変わりましたね! 
上記二冊はどちらも短編集で、小気味よい展開が魅力的でした。登場人物の心情をじっくりと描いた長編もいいですが、枝葉をとりはらい、凝縮させた短編にいっそう惹かれます。

 

minorimainiti.hatenablog.com

正直、ネタバレへの配慮が難しい作品です。順を追ってあらすじをまとめ、簡単に感想を書いていきますね。

 

 

第一話 染み

雑誌に怪談を書かないかと持ち掛けられた作家の『私』。
体のいい理由で断ろうとした矢先、その企画が「出版社のある神楽坂を舞台とした特集」と知る。
執筆に気がのらない理由は、クローゼットに封印した一枚のポスターに散る小さな染み。
『私』は八年前の神楽坂で起こった不可解な事件を思い出す。

 

『許されようとは思いません』のゲラを戻し終えた直後に執筆依頼が、との設定に「あ、私それ読んだ読んだ!」と一気に物語に引き込まれます。そういう仕掛けだとわかっていても、小説が現実の世界と地続きのような感覚は楽しい! 広告代理店勤務のゲストキャラクターの仕事内容も興味深く読みました。

話が進むにつれ、そんな悠長なことは言えなくなるのですが……。

 

第二話 お祓いを頼む女

実話怪談『染み』を読んだフリーライターの知人が、作家に打ち明ける体験談。
 
「私、祟られているんです。最近では夫と息子にまで祟りが広がってしまって」
「どうかお祓いができる人を紹介してください」
見ず知らずの女性がかけてきた一本の電話。
記事を読んだ、ファンだと名乗る相手を無下にはできない、そんな心理につけこむように女の要求はエスカレートしていく。
いちばん怖いのは人間だと実感する狂った言動の数々。……と思いきや。
 
第二話を読んだとき、まっさきに頭に浮かんだのは「合宿所案件だ…!」でした。

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非オタク、かつ若年層には通じない例えでしょうが、自称・愛読者が自宅まで押しかけてくる恐怖といえば上記のネタは外せません。

こちらに口をはさむ余地を与えず、自分ひとりで完結した世界から「正論」をまくしたてる狂人が怖いのは今も昔も同じ。そう納得しながら読んでいると、ラストであっけにとられます。

 

第三話 妄言

『私』の仕事仲間であり、良き相談相手でもあるオカルトライター・榊桔平。彼が書きそびれていたネタを披露する。
 
結婚を機に郊外の中古一軒家を購入した若夫婦。
世話好きな隣家の夫人のおせっかいに戸惑うものの、しばらくは平和な日々が続いた。
しかし、妊娠した妻に隣人はある疑惑をふきこみ……。
 
全編を通して活躍する榊さん、とっても魅力的なキャラクターなんですよね。胡散臭い話し方、怪異(ネタ)を求める貪欲な姿勢、けれど仕事への態度は妙に生真面目。そんな彼が「書く機会を失った」ネタだなんて、気にならないはずがない。
おかしな隣人という題材は第三話と似ていますがさらに捻ってあり、読んでいて「え??!」と前のページに戻ってしまいました。
 

第四話 助けてって言ったのに

連載が続くうち、出版社の垣根を越え『私』のもとに怪談が集まるようになってきた。
今回は不動産会社経由で持ち込まれた怪異。
 
若いネイリストの女性が夫の実家に引っ越してから見るようになった恐ろしい夢。
異様に生々しいその悪夢は、かつて姑を悩ませたものと同一だという。
 
この回から新たに登場する「拝み屋」陣内さん、彼も榊さんに負けないほど素敵なキャラクター。ごく普通のおじいさんといった外見と穏やかな物腰、見た目はまったく霊能者らしくありません。それなのにときおり感じる底知れなさに、この人は本物だ、と不思議な確信を抱いてしまいます。

 

第五話 誰かの怪異

新居と怪現象は切り離せない、ということで不動産会社絡みをもうひとつ。
 
大学進学のため借りたアパートは驚くほどの好条件だった。
不審な出来事が続き、事故物件を疑った学生は問い合わせる。
しかし怪しい過去は見つからず、困った彼は友人の紹介で素人の「霊能者」を頼ってしまう。
それは正しい選択だったのか……。
 
すべての話のなかで本編『誰かの怪異』がいちばん好きでした。怪談とミステリー、そして作者独自の世界が美しく融合した作品。これからも何度も読み返すことでしょう。
ぜひネタバレなしで手にとっていただきたいです。

 

最終話 禁忌

怪談連載も長くなり、『私』は単行本作業に忙殺されていた。
書評は実名で登場する榊さんに依頼中。
出版社の遊び心にのってはやばやと原稿を仕上げたはずの彼から、「やっぱり、あの原稿は差し替えたい」と連絡がくる。
 
作家はなぜ断るつもりだった執筆を引き受け、ここまで書き継いできたのか。
【怪を語れば怪至る】 怒涛のような答え合わせが始まります。
 
 
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
やっぱり読書は楽しいですね。年末年始に読むはずだった本がたまっているので、これから手にとりたいと思います。