みのりブログ

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【読書感想】桐野夏生『ハピネス』華やかな生活の裏にひそむ虚無

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読書感想 2021年11月

桐野夏生さんの作品は『OUT』『グロテスク』など、寝食を忘れて読んだ記憶があります。
今回の『ハピネス』は題材的に『魂萌え!』のような内容かな? そう思いながらも気が進まず、ここ数年は積読状態の本でした。
 
しかし読み始めてみれば一気読み。同時に、なぜこんなにも手にとるのが億劫だったのか理解できた気がします。

『ハピネス』 桐野夏生

登場人物全員がうっすら不快。
一息に読み終えるほど面白かったのに、読んだあと何も残らない。
普段ならネガティブな感想はわざわざ書きません。
しかし、この作品に限って言えば「何も残らなかった」空虚さが、ある種の褒め言葉になるのではと思いました。
こんな不思議な読後感は初めてなので、備忘録も兼ねて記事にしたいと思います。
※ネタバレ満載ですのでご注意ください!
 
 
 

 
海沿いのタワーマンションに娘とふたり暮らすヒロイン・有紗ありさ)。
慣れない高層住宅での生活、セレブなママ友たちとの緊密だけれど息がつまる関係、夫の不在……。
閉鎖的な有紗の生活が少しずつ変わっていく姿を描く。女性誌「VERY」連載)
 

つまらなかった映画の悪口って楽しくないですか?

性格の悪い発言ですみません。楽しいと表現するのは語弊がありますね。
けれど「毒にも薬にもならない作品より、駄作のほうが記憶に残る」経験は誰しもあるものではないでしょうか。
 
映画館を出た直後はもちろん、近隣の飲食店や電車内でも悪口は言わない(同じ映画を観たひとがいるかもしれないので)ネットで触れることも多くありません。
そのかわり、同行者が同じ意見であれば、繰り返し話題にのぼります。それはもう何回も。
 
 
私がなぜこんな告白を始めたか。それは『ハピネス』に自分のなかの卑しい部分を直視させる力があるからです。
作家の大事なキャラクターを「不快」とまで言いながら、嬉々としてブログを書くのも醜い行為でしょう。こうなることがあらすじで予想できたため、長く本を放置してきたのかもしれません。
 
読み終えた今は、考えが少し変わりました。
己の醜さを自虐するように、登場人物の言動を笑う。『ハピネス』の読者として、その楽しみ方は「アリ」だと思うのです。
 
 
 
 
どのように楽しんだか、印象に残った場面をいくつかあげてみます。

 

頻出する「〇〇ちゃんママ」というワードにのっけから胸焼け。

ママ友同士の狭い世界を端的にあらわす、リアルな呼び方であることは想像がつきます。はみ出し気味ママとの友情を育む伏線であることも。
しかし、あんまりにも連呼させすぎ!!! 読者をうんざりさせる意図をちょっと感じました……。
 
同時に、優雅なママ友に引け目を感じつつ、マウントをとりたがる有紗の心理も浮き彫りになります。
孤独で見栄っ張りなヒロインに寄り添っているようで、どこか悪意を感じる突き放した描写。桐野ファンに不評らしいのも納得な『ハピネス』ですが、私はこの部分に作家性を感じました。ママ友グループの中心人物である華やかな「いぶママ」の末路もそうですね。
 

主人公は本当に成長したのだろうか

この点については、深く考えてはいけません。私自身があまりそうは思っていないので。
 
作中で有紗が変わってきたのはわかる。けれど、さして親しくもない義母に「強くなった」と評される場面では脳内を???マークが飛び交いました。
最後まで引っ張った夫との不和はアッサリ解消して元の鞘におさまるし、自立するため働き始めるのは最終章から。義母との会話の時点で目覚ましい変化といえば、自分の過去と向き合ったくらい。前向きな展開にするため言わせた、少々わざとらしいセリフに感じます。
 
けれど、読了後に『ハピネス』には続編があると知りました。あらすじを読むと、前作の結末をぶち壊すような内容。
せっかく良い話風にまとめたのに……。そう思いつつ、嫌なやつにも人間味が出た物語後半で、登場人物にますます疎ましさを感じた自分は「そうきたか!」と思いました。
 
冒頭で覚えた虚無感は正しかった。これなら、世間一般でいう成長をヒロインがしなかったように見えても問題はありません。そのうち続編も読んでみたいです。
 
最後に。
陰湿な仕打ちを受けた被害者みたいに描写されてるけど、シャベルが下の階に落下はヘタしたら大惨事。有紗さん、そこは猛省しないとダメだと思う!