みのりブログ

毎日を楽しく暮らしたいのんびり者です。

【読書感想】芦沢央『許されようとは思いません』禁忌の一線を踏み越えるとき、人は何を思うのか

f:id:jijiminori:20211007025802p:plain

読書感想 2021年10月

 

【 後味の悪い 】物事がすんだ後に、あまり良くない感じが残るさま

普通ならば褒め言葉にならないでしょう。けれど、あえて「後味の悪い小説だった」と表現したい、そして面白い短編集でした。

ミステリーと銘打たれた本作品には、当然ながら収録作すべてに犯罪とその謎解きが登場します。しかし真相へたどりついたとき読者が感じるのは爽快さではありません。罪を犯した人間、その足元にぽっかり開いた穴をじっと見つめ続けるような感覚。

 

「動機なんて不可解なものですよ。(中略)たとえ元がどんなに常識的な人であっても、殺人という常人では越えることのない一線を越えた瞬間は異常だった。その異常さは当人にとって禁忌を犯すほどに切実な動機から来ていたのだろうと憶測できるだけです。」

                      『絵の中の男』(芦沢央)より引用

 

最終話でこの一文を読んで、一貫して流れるテーマはこれだ!と感じました。

登場人物が熱っぽく語る「一線を越えるとき」、読者はまさにその瞬間の目撃者となるのです。

順を追って感想を書いていきますね。

『許されようとは思いません』 芦沢央(あしざわ よう)

 

許されようとは思いません

祖母の納骨のため、恋人とともに田舎へと向かう主人公。幼い彼にいつも優しかった祖母は「殺人者」という十字架を背負っていました。

閉鎖的な村社会の不気味さが丹念に描かれており、読んでいるこちらまで息苦しくなってきます。私が知らないだけで、現代でもこのような状況は珍しくないのでしょう。

表題ともなった「許されようとは思いません」、祖母が裁判で自らの罪を証言した言葉です。

開き直っているのか、殺人を悪とは思わなかったのか。彼女の真意をぜひ読んで確認してください。(ちょっぴりネタバレになりますが)わずかな救いが見える唯一の作品でもあります。

 

目撃者はいなかった

息をつめて読み進み、ページを閉じて思わずため息が出てしまう作品。

長らく結果が出なかった営業マンの青年が主人公です。それが思いがけず好成績を残し上司からも認められ、目の前の道が開けたような気持ちで有頂天に。

当然でしょう。──でも、それが自分の入力ミスによる売り上げだったら?

すぐにミスを報告しなければ、でもこっそり挽回する手段がまだあるかもしれない。ふたつの気持ちのあいだで揺れ動く青年は、最悪に最悪を重ね破滅へと突き進んでいきます。

物語の疾走感といい皮肉なオチといい、よく出来た寓話のようでした。文庫版では表題作でなくこちらがあらすじに書かれているのも納得です。重厚な2時間サスペンスドラマで見てみたいですね。

私は彼があがく気持ちがわかってしまい、読んでいて終始胃が痛かったです……。

 

↓↓↓ 『目撃者はいなかった』のみ、出版社HPで最後まで読めます。よろしければどうぞ。

www.shinchosha.co.jp

ありがとう、ばあば

登場するのは祖母と孫娘ですが、ステージママなんて呼び方は現在もするのでしょうか。

冒頭を一読しただけでは描かれている状況がわからず、登場人物の関係性を理解するごとに徐々に怖くなっていく。小説を読む醍醐味を感じられる短編でした。

 

姉のように

5本の収録作中、読者がもっとも読み返すのはこちらではないかと思います。

尊敬する姉が逮捕され、鬱々とした毎日を送る主人公の女性。優しくてなんでも知っているお姉ちゃんは犯罪者になった。他人である夫には本音を言えず、幼い一人娘を抱えた彼女は次第に追いつめられていきます。

主人公の心情を丁寧に綴るなかに、ときおり「ん?」と思うような違和感が挟まれるのですが、私は深掘りしませんでした。そのおかげでラストを存分に楽しめたのだから、ぼんやりした読者でいるのも悪くありませんね。

 

絵の中の男

身近な人間が次々に悲惨な死を遂げる画家、数奇な運命の彼女に仕える家政婦だった老婦人。数十年の時を経ていまでは鑑定士となった老婦人のもとに持ちこまれた「贋作」は、いったいなにを語るのか……。

趣味が美術展めぐりなので、芸術家の業をテーマにした作品は好きです。

浅宮二月にモデルはいるのかな?と呼んだあと検索してしまいました。

 

 

長編ではなかなかしんどい作風ですが、短編集であればこの重さはむしろ好み……!

たいへん面白かったので、他の作品も読んでみたいと思います。

 

やはり読書は楽しいと最近実感しています。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!