みのりブログ

毎日を楽しく暮らしたいのんびり者です。

女たちの紡ぐ物語 「塩袋と伝統のギャッベ展」と小説『からくりからくさ』

 

絨毯、キリム、草木染め。

古くから女の手仕事とされてきた染織工芸は、女性の感情と深く結びついている。

 

 

外出機会が多かった5月。たばこと塩の博物館で開催された「塩袋と伝統のギャッベ展」にも足を運んでいました。いつの話?という感じですが……

 

www.museum.or.jp

 

素晴らしい展示だったので、自分が忘れないためにも文章にしたいと思います。

 

記事後半は、展覧会と関連した小説のご紹介。

ギャッベ展を鑑賞しながら強い既視感に襲われました。

『からくりからくさ』(梨木香歩

読んだことのある方なら「ああ……」と納得していただけるかもしれません。

 

よろしければ最後までおつきあいください!

 

「塩袋と伝統のギャッベ展」 たばこと塩の博物館

 

 

 

展覧会タイトルの「塩袋」「ギャッベ」、耳慣れない単語に一体なんだろう?と首を傾げた方も多いのではないでしょうか。

 

塩袋*1は名前通り塩を保存するための袋で、遊牧民の生活には欠かせない道具。

美しい模様を織り込んだ塩袋は実用品であると同時に、世界にコレクターがいる民族工芸品でもあります。部族ごとにデザインに特徴があり、所有者がわかるようになっています。

 

こちらのサイトで丁寧な説明とともに塩袋のコレクションを見ることができます。ぜひリンクから飛んでみてください。色合いもさまざま、華やかな房飾りがついていたりと多種多様! 

tribe-log.com

 

それにしても、筒状にすぼまった凸型……ちょっと変わった形状ですよね。

奇妙なつくりの謎は、遊牧民と家畜との関係を考えると答えが出ます。

なぜ口がすぼまっているのか── 答えは「家畜が塩を勝手に舐められないように」!

 

遊牧民にとって家畜は財産ですが、いくら大事でも紐につないでおくわけにはいきません。

広大な大地で家畜をコントロールする手段。それが「塩」なのです。

 

草食動物が餌とする植物には塩分がほとんど含まれず、そのため家畜は本能で塩を求めます*2

人間が塩を与えてくれると理解すれば、囲ったり拘束しなくとも彼らは従ってくれる。

展覧会ではこの仕組みを「生理的な紐」と表現していました。

 

塩袋の奇妙な形状は、家畜の頭が入らないサイズに作られているそうです。

草食動物に塩が必要なことも「そう言われればそうか」程度の認識だった私には、すべてが未知の世界。身近にいる動物といえば犬・猫なので、ついつい塩分はとらせちゃダメ!と思い込んでいました。

 

 

もうひとつの「ギャッベ」は遊牧民絨毯の一種。

しかし、精緻な芸術品として高額でやりとりされる絨毯とは違い、基本的に売買はせず家庭内で使われるものです。

それゆえに織りが粗かったり、素朴なデザインだったりと、絨毯の原型と呼ばれるギャッベならではの魅力が楽しめます。

 

商品として考えていないためか、モチーフも自由奔放で驚かされました!

植物や孔雀・ライオンといった動物、少女たちの群舞のような可愛らしいデザインも。伝統的な絨毯よりギャッベのほうが現代のインテリアには映えるかもしれませんね。

技術がまだ拙い少女の練習台でもあったらしく、素人目にもガタガタしてるかな?とわかる品があり微笑ましかったです。2人で同時に左右から織ったものとなると、技量を比較されてしまい少々気の毒でしたが……。

 

 

キリムも展示されていました。

遊牧民絨毯・ギャッベはどちらも毛足が長い織物ですが、キリムは平織り。他の2種よりも軽く薄いため、生活のさまざまな場面で使われるそうです。

 

展覧会 感想まとめ

 

ギャッベも塩袋も、生活に密着したものだからでしょう。

きれい!目の保養!と単純に楽しむのと同じくらい、これを作った女性たちの生活に思いを馳せてしまいました。

遊牧中に簡易な織り機で織ったギャッベは、最後に真ん中でつなげて完成させるのですね。住まいを移動しながら染織作業をするというのも、やっぱり想像がつきません。

 

絨毯ひとつを完成させるのにかかる、気の遠くなるような時間。いったい何を考えて、どんなことを話しながら織り上げるのか。

そんなことを考えつつ、長く展示室で過ごしてきました。

 

 

本展覧会は終了してしまいましたが、塩袋は過去にも何度か企画展に出品されているそうです。

面白いテーマの展示が多いので、スカイツリー・押上散策の際にはぜひ寄ってみてください!

 

www.tabashio.jp

 

 

『からくりからくさ』 梨木香歩

 

『からくりからくさ』は手仕事に魅せられ、古い日本家屋で共同生活を送る女性たちの物語です。

糸を紡ぎ、植物の枝葉をとってきて草木染めをし*3、朝な夕な機を織る。

展覧会でこの小説を思い出したのは、登場人物のひとりがキリムを研究していたためでした。

 

 

 

蓉子・紀久・与希子・マーガレット。

若い女性が4人集まればさぞ華やかな……と想像しますが、蓉子の祖母の遺した家に集まった彼女たちの日常はぐっと地味なものです。

ていねいな暮らし系の小説と思いきや、食費を節約して網戸を導入しよう!と庭の雑草を料理しはじめる展開も。その様子はまるで大人のおままごとで、ジャンル分けのできない複雑な魅力をもつ作品でした。

 

『からくりからくさ』を異色作にしているのが、家の中心に座る「りかさん」の存在です。

蓉子が祖母からもらった日本人形で、幼いころから折に触れて彼女を助けてきた不思議な人形。りかさんに導かれるように、4人は自分たちに繋がる人々の過去をたどっていきます。

 

最後に、少し長いですが本文を引用して終わりたいと思います。

紀久が旅先から皆へ送った手紙の一節。私が「塩袋とギャッベ展」でめぐらせた見知らぬ女性たちへの想像が、くっきりとした文章で綴られています。

 

 

(前略)

 

一日の家事や野良仕事が終わった後、機に向かったのですから、心躍る楽しいことのあった日、切ない、悲しいことのあった日、怒りのこみ上げて止まない日、機の音は違っていたでしょうし、反物はそういうものに織りあがっていったのです。

 


女たちは機を織る。

 


反物という一つの作品に並行して、彼女たちは自分の思いのたけも織り上げていったのです。

 


古今東西、機の織り手がほとんど女だというのには、それが適正であった以前に、女にはそういう営みが必要だったからなのではないでしょうか。誰にも言えない、口に出していったら、世界を破滅させてしまうような、マグマのような思いを、とんとんからり、となだめなだめ、静かな日常に紡いでいくような、そういう営みが。

 


『からくりからくさ』梨木香歩 本文より引用

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

『からくりからくさ』機会があればぜひ読んでみてくださいね。

 

 

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*1:「ナマクダン」とも呼ばれる

*2:今回初めて知ったのですが「牛の塩好き」は有名だそうで……

*3:小説内で媒染剤についての描写も多く、ギャッベ展で「ロバの尿を使った媒染」もあると知り、へえ~となってしまった