みのりブログ

毎日を楽しく暮らしたいのんびり者です。

たとえ世界から置いていかれても 『団地のふたり』読書感想

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読書感想 2022年6月

『毎日を楽しく暮らしたいのんびり者です』

これは私のプロフィールの書き出し部分です。

実際は日々悩み、あくせくと暮らしている身ですので、綺麗ごとすぎるかなぁとも思うブログコンセプト。しかし、けっこう気に入っています。

現実より背筋を伸ばした自分で文章を綴る。そうすることで物事の違う側面が見えてくるのは、ブログを始めなければ知らずにいたでしょう。

 

理想として掲げるのは、現状が追いついていないから。

だからこそ理想を体現している人には羨望半分、それホント?と疑う気持ち半分の心情です。相手がフィクションの世界の住人であっても。

 

 

今回ご紹介する団地のふたり』の登場人物は、絵に描いたような「のんびり生活」を送っています。

 

のんびり生きたいけれど、凡人にはとても難しい。

そもそも現代の日本でそんなこと可能なの?

 

あらすじを読んでまっさきに浮かんだのが、こんな問いかけ。

疑問を抱えつつ手にとった本作ですが、あっという間に読み進み、読後感は不思議なほど爽やかでした。私と同じタイプのひねくれた方に読んでほしい小説です!

 

団地のふたり』 藤野千夜

 

なっちゃんとノエチ、ふたりは保育園時代からの幼なじみ。

 

華やかなイラストレーターの仕事にあぶれ、フリマアプリの取引やなんでも屋で稼ぐなっちゃん

大学の非常勤講師で、人間関係に悩んでは親友の家に入り浸るノエチ。

人生それなりに山あり谷ありだったけど、現在は生まれ育った団地に帰り、まったりと暮らしている。

 

昭和の遺物のような団地は建て替え計画が進行中。住人も減っていく一方だ。

でも、彼女たちに悲愴感は全然ない。

早逝したもうひとりの親友・空ちゃんの思い出が残るこの団地は特別な場所。

 

通販サイトで頼んだ野菜を半分こしたり、隣人からの頼まれごとに奮闘したり、ときには自転車で遠方まで出かけたりと毎日あれこれ忙しい。

 

特別なことは起きないアラフィフ女性ふたりの日常を、ユーモアたっぷりに描く。

 

 

あらすじをまとめてみたら、けっこうショボい……「理想」とは……?

 
 
奈津子さんも野枝さんも、周囲から憧れの目で見られるタイプではありません。どっちかというとダメダメ。
 
堅実にキャリアを重ねているわけでなく、かといって人生を達観してもいない(食生活は質素だけれど)。
 

私はフリマアプリ類を利用しないので、近所の人から持ちこまれる品々をさばくなっちゃんに「古物商許可いらないの?」と余計な心配をしつつ読んでいました。

作者の藤野千夜さんがマンガ雑誌の元編集者だったせいか、扱われる品にはノエチの買った同人誌もあったり。

リアルだけれど、女性オタクとトラブルにならないよう気をつけてね……!*1

 

なっちゃんたちのお気に入りはTVの断捨離番組なのですが、好き勝手に感想を言い合うばかりで実家の整理は遅々として進んでいません。家族がまだ元気だから良いものの、数年後にはどうなることやら*2

 

50代でも隣人からすれば断然若者、次々にお願いごとが舞い込みます。ぼやきながらも新しいことを覚えるのに新鮮な喜びを覚えるなっちゃんとノエチ。

 

ふたりの暮らす団地は昭和30年代半ばの建設と古く、昔遊びにいった親戚の家を思い出しました。

時代に取り残されて、ゆっくりと沈んでいく故郷は時間の流れがここだけ違うかのようです。

けれど、不思議と彼女たちに悲愴感はありません。はるか昔に亡くなった空ちゃんが、この空間を守っているみたいに。

 

『誰がどういう悪口言うのかも、もうわかってるけど』

 

向上心がないとお叱りを受けそうなふたり。

実際その通りだとは思います。年齢からすれば親の介護が始まっていたり、亡くなっていてもおかしくありません。運よく家族が元気でいるから、いつまでものん気でいられるのだと*3

 

 

でも、彼女たちにはとても素晴らしい美点があります。

自分と他人を比べたり、嫉妬したりしないんですよね。

なっちゃんイラストレーター仲間が成功すれば素直に喜び、ノエチとふたりでお祝いにいく。ちらっと登場する男友達も妬み嫉みとは無縁の印象でした。

恵まれた人生を送っていても簡単ではないと思います。
 
 
『誰がどういう悪口言うのかも、もうわかってるけど、いいよね、そういうの』
ノエチが呟いたこの一言が、ふたりの人生の乗り越え方なのでしょう。
 
 

 

出会った保育園時代からお互いに色々なことを経験して、今また団地の一室にいるふたり。
この40数年なんて存在しなかったように。
建て替えを遠くない未来にひかえ、ふたりも家族も確実に老いていきます。
空ちゃんが守ってくれていると書いたけれど、それだって永遠には続かない。

 

でも、なっちゃんにはノエチが。ノエチにはなっちゃんがいる。
それならば、きっと大丈夫だと思えるラストでした。
 
 
興味があれば手にとってみてくださいね。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
 
 
 

*1:二次創作の場合、高額転売や同人誌に詳しくない一般ファンとの棲み分けの都合上、フリマアプリへの出店はかなり嫌われる

*2:身に覚えがあり、心が痛む

*3:ふたりが実家に戻ったのは親の心配もあるだろうし、なっちゃんの母親は親戚の介護で帰省中なので問題に無縁なわけではない