みのりブログ

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【読書感想】『風鈴』と『サマータイム』ふたつの小説を「3人」というキーワードで読む

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読書感想 2021年8月

松浦理英子さんの「風鈴」を読みました。

作者の著作を手にとったのは「犬身」(けんしん)が最後なので、ずいぶんと昔のこと。

幼いころから犬を愛し、「自分の魂は人間よりも犬に近い。叶うならば、この身も犬へと変わりたい」と願い続けた主人公の女性がたどる数奇な運命を描いた長編です。彼女は怪しげなバーのマスターと契約を交わし、死後にその魂を捧げることを条件に仔犬へと生まれ変わるのですが……。

あらすじに「あの人の犬になりたい」とあるように、仔犬の視点で語られる飼い主と見初めた女性との暮らしはほのぼのと新鮮でありながら、セクシュアリティの揺らぎを感じさせるものでもあり。ファンタジーと単純に言い切るには危うい、とても奇妙な作品。後半の重苦しさも含めて大変面白かったです。

 

「風鈴」松浦理英子

そんなわけで本題。

読み始めてから気付いたのですが、ごく短いお話でした。

退屈な田舎町の夏休みに飛び込んできた、ハッとする強い印象の都会の少女・ミヤビ。

見慣れた岩壁に鮮やかなTシャツ姿で取りつく彼女がやっていたのは、ボルダリング。洒落たスポーツの趣味、映画俳優の父親、そんな垢ぬけた少女の気まぐれに、語り手であるアオイと幼なじみのワタルは魅了されつつも翻弄されます。

 

ミヤビからボルダリングを習うアオイたち。ミヤビがどちらか一方だけと遊ぶたびに3人の仲には亀裂が入り、疎遠になりはじめたころ、彼らは風鈴をいっしょに作ることになり……。

 

外部からきた少女(または少年)と現地の姉弟(実際は違う)!! 振り返ればほんの一瞬、だからこそ眩しいひと夏の物語!

わ~すっごく好きなやつだ! 

……と喜んでページをめくっていたのですが……。

 

 ※以下、核心部のネタバレあり

ラストは一気に陰鬱になり、ああそうだ、相手は「犬身」の作家さんだったと思いながら頭を抱えました。読者を選ぶ内容なので、くれぐれも取り扱いには注意

私は見ての通り「3人という割り切れない数字の関係性+夏の思い出」という方向で楽しんでいたので、戸惑いも大きかったです。

最後の悲惨な事件が強烈すぎて、前半・後半のエピソードが断絶しているような感覚。物語でミヤビの果たした役割はいったいなんだったのだろう? 風鈴のモチーフが犯行現場を思わせるのはわかるけれど、ミヤビがいっしょに作っていなくても成立するような。不思議な後味の作品でした。

 

いろいろな解釈を聞いてみたいと思うのに、紙の書籍で単行本化していない(アンソロジーのみ)せいか、あまり見かけませんね。Prime Reading対象だったので私はそちらで読みました。

 

サマータイム佐藤多佳子

私がいつから「3人」という危ういバランスの上に成り立つ関係にときめいているか、今となっては定かではありません。

けれど「風鈴」を読み始めたとき、まっさきに頭に浮かんだのは佐藤多佳子さんの「サマータイム」でした。

今回この記事を書くにあたって、書棚の奥から引っ張り出して再読。

本当に久しぶりだったので、記憶違いをしているところもたくさんありましたね。「風鈴」でいうところのミヤビにあたる広一は、都会からきた少年ではなかったし(彼の弾くジャズピアノのイメージがそう錯覚させたのでしょう)進と佳奈の姉弟は、肉親だけあってアオイとワタルより遠慮なくケンカも心配もする仲でした。

 

日常をすっかり変えてしまうような、異質な他者との出会い。

恋にも似た、でも知った言葉に当てはめてしまうと大切なものが零れ落ちてしまうような。

そこに相手の視線を独占できないジリジリした気持ちを上乗せすると、私の大好物とするジャンルの出来上がりです。

 

改めて考えるとなかなか業の深い趣味のような気もしますが、この魅力にはあらがえません。他にもこんな物語がないかな~と常時チェックしています。

※「風鈴」とは違い、こちらは月刊MOE童話大賞の受賞作なので残酷な描写などはありません。安心してお読みください。

 

 

 

 

 終わりに

やはり夏は読書に最適、物語の舞台としてもたいへん良いと再確認しました。ここ数年、読みたいとは思いながらも気力が尽きていたので、ブログ開設を機にあれこれ楽しめたらと思っています。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

 

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