続く日々、毎日の食卓。エッセイ『いわしバターを自分で』読書感想
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読書感想 2022年5月
「本と出会うのは運命。わざわざ探さなくとも、読むときは読む」
最近、本の情報を集める時間がめっきり減りました。昔は雑誌の書評欄や本屋の店頭を眺めては、好みの新刊がないかチェックしたものですが……。
新規開拓をするパワーがないのですね。
時間がないから、調べても読みたい本リストが厚くなるだけだから。
手にとるのはかつて好きだった作家や、その流れを汲む人ばかり。消極的な読書姿勢だなあと我ながら思います。
運命に任せるのも悪くない。けれど、ときどきは目新しい本も読みたい。
そんなときに役立つのがTwitterです。
私は個人書店のアカウントをいくつかリストに入れています*1。出版時や文庫化など、入手しやすいタイミングで流してくれるのも良いところ。
もうひとつのメリットは、書店なので扱う書籍の幅が広く「自分ではまず探し出せない本を紹介してくれる」ことでしょうか。
趣味が合うのが前提でフォローする個人読書アカだとこうはいきません。
そのような経緯で知ったのが、今回ご紹介するエッセイ『いわしバターを自分で』です。
『いわしバターを自分で』 平松洋子
作者は平松洋子さん、世界の食文化と暮らしについての著作多数。
ほとんどエッセイというものを読まない私は、初めて聞く作家名だ……と思いつつ、タイトルの「いわしバター」に惹かれてページをめくりました。
いわしって、あの鰯をバターに? 魚をバター焼きするのじゃなくて? 生臭いんじゃないの、それ……。
読み始めてすぐに、この読書体験は(個人的に)アタリだ! と確信しました。
とにかく話題が豊富、かつ自由自在。短い1本のエッセイで話はあっちに飛び、こっちに飛び、しかし着地はピシッと決める。
軽やかで小気味よい文章のなかに「ほや飯」「蒸し寿司」「とんかつ茶漬け」「ふきのとうの春巻き」他、気になって読まずにはいられないワードが詰まっています。
初耳の美しい郷土料理「巻柿」、名前は知ってるけれどこんな気の遠くなる手間が必要とは……の「栃餅」などなど、取り上げられたものすべてが新鮮でした。
珍品ばかりではなく、ミルクセーキやフキと油揚げの炒めといった懐かしいメニューへの言及も。
本を閉じるたびに料理を検索すること必至です。
けれどネットで調べるのは一呼吸おいてからがいいかもしれません。挿絵もあるものの、平松さんの文から未知の物体を想像するのがまた楽しいのです。
そう言いつつ、表題作のいわしバターのレシピ記事を紹介しておきますね!
それでもお腹はすいてくるから コロナ禍の食卓
『いわしバターを自分で』は、エッセイ『かきバターを神田で』『すき焼きを浅草で』などのシリーズ最新作とのこと。しかし、解説を読むかぎり本作はかなり異色のようです。
理由はコロナウイルス感染症が作中に色濃く影を落としていること。
『コロナ禍の日々』と題された日記形式の文が本の半分を占めています。書き出しが「初めての緊急事態宣言が出た」で始まる食エッセイ、なんだか麻痺していてヘンに思わなかったのですが、たしかに異様ですね。
注文がなくなったわさび田の生産者の声、テイクアウトに活路を見出す街の料理店。悔しさをにじませた内容も多いですが、思わずクスっと笑ってしまうネタもあります。コロナでなくなったもののひとつ、試食販売! 恋しいですよねー、わかる。
今回の記事冒頭でTwitterに触れたせいか、思い出したこと。
私はオタクなのでいわゆる「ジャンルアカウント」を持っており、そこで日常はあまり呟きません*2。公式と原作の話がほとんどで、フォローしている人も大体はそんな感じ。
私生活と趣味をわけた運用はトラブルの可能性も低く、居心地もいいので満足しています。
けれど今回のエッセイで、未曾有の事態に迷う日々の記録を読みながら胸にグッとくるものがありました。
そうだった、あのときはこんな状態だった。
これほどまでに大きな出来事も、数年で記憶が薄れている自分に愕然としました。慣れなければやっていけない面があるにせよ、です。
相互のアカウントが、当時「楽しみにしていたお菓子の通販、配達の人に悪くて迷ってる」と呟いたのを不思議に覚えていたりするんですよね。
日記らしい日記をつけない私がコロナ禍の日々を忘れないために、もう少し日常話をしていればよかったかな……。
おそらく一般の方にはよくわからないであろう後悔をしつつ、該当の章を読み終えたのでした。
薄い文庫本とは思えない満足感がある1冊! 読んでみてくださーい
作中で紹介されていた分厚いエッセイ集『 Neverland Diner 二度と行けないあの店で』も面白そうでチェック済み。そのうち挑戦してみたいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
ほぼ3年がかりで原稿を集めてて企画・編集した本ができあがりました。「Neverland Diner 二度と行けないあの店で」、660頁・4.4cm・660g、100人の二度と行けないお店のエッセイ集です。1月22日発売予定、こんな時代だから読んでほしい1冊(になってしまった・・・)です! https://t.co/mxVpky4lXe pic.twitter.com/WByL86IFlU
— スナックアーバン (@snack_urbann) 2020年12月16日
Neverland Diner――二度と行けないあの店で(都築響一 編) – KENELE BOOKS
「のんびり」や「食べもの」をテーマにした読書感想で、こんな記事も書いています。